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にう
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もう一度、修学旅行。(京都)

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「すみません、写真を撮っていただけませんか?」

突然、声をかけられたのは、京都は東山にある南禅寺の境内でのこと。
南禅寺といえば、天下の大泥棒・石川五右衛門が、三門(さんもん)という重厚な門の上にのぼり「絶景かな、絶景かな」とのたまった伝説のあるお寺。鎌倉時代から続く古刹なのである。

三門より「絶景かな」
三門より「絶景かな」


実はこの三門、完成したのが江戸時代という。
対して石川五右衛門が京の都の屋根や塀を飛び回っていたのは安土桃山のこと。
「絶景かな」は歌舞伎の演出であり完全な創作。実際には、石川五右衛門がどんなに飛び上がっても存在しない門にはのぼりようがない。
はなはだ嘘っぱちもいいところなのだけど、それでもやっぱり「南禅寺」と聞いて想像するのは石川五右衛門なのである。

閑話休題。

写真を撮ってくれと私に声をかけてきたのは、40代向け女性誌「STORY」の読者モデルとして出てきそうな、こぎれいな身なりをした女性二人組。
髪型はセミロング、ショートと異なるものの、質の良いカーディガンにひざ丈のスカートは二人とも白を基調としていて、どちらも肩から下げているのはルイヴィトンのバッグ。
話を聞いてみると、高校の頃からの友人なのだそう。

「いいですねー!修学旅行みたいで!」

南禅寺の境内にはテレビドラマでよく撮影される水路閣がある。二人はそれを背景にして「お目目ぱっちり、口角上げ」のモデル仕様で写真に収まっていた。

南禅寺の水路閣
南禅寺の水路閣


写真の出来栄えを確認してもらい、笑顔で別れ、私は南禅寺本坊にある庭を拝観することにした。

庭に面する廊下に座り、白砂利と苔むした岩のミニマルな風景に何かしらの意味を見出そうとするうちに、私は先ほどの女性二人組の姿を思い浮かべていた。


姉妹と言っていいほど雰囲気が似ていた。
きっと、家庭環境が似かよっていて、大学も同じような…ああそうだ、二人ともきっと私立の女子大、そして20代半ばに同じような相手と結婚して、同じくらいの時期に子どもが生まれて、子育ても落ち着いて余裕が出てきたので、こうやって二人で旅行に来た、といったところだろうか。
20年以上の友人関係という時間の重さはこのお寺の歴史には敵わないけれど、それでも、高校・大学の同級生とは年賀状とSNSだけの関係となってしまい、現在の姿を思い浮かべることができずにいる私にとって、二人の関係性はとても貴重でまばゆいもののように思えた。


二人の間にある背景は、ほんとうのところは分からない。
実際には真逆の人生を歩んできたのかもしれないし、「高校の頃からの友人」とは言いつつもご縁の濃さは一定ではなく、お互いに離れていた時期もあったのかもしれない。
今回の旅行も、もしかしたらどちらか一方は無理して出かけてきたのかもしれない。


それでも、仮にあの水路閣を背景に記念撮影をした際、私が
「石川五右衛門の『絶景かな』って実際にあったことじゃないらしいですよ」
と言ったら、二人とも同じようにちょっと小首をかしげてお愛想で笑ってくれただろう。
華やかながらも清々しい雰囲気の女性たちだった。

二人はいくつかの古刹を巡ったあとに、ホテルのツインルームでちょっといいシャンパンを開けながら、高校時代の先生の思い出話に花を咲かせたのではないだろうか、まるで「もういちどの修学旅行」みたいに。

二人の旅路の無事に思いを馳せつつ、私は南禅寺の白い庭から立ち上がったのだった。(1,300字)

南禅寺本坊の庭
南禅寺本坊の庭
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エピソード

史跡めぐりや神社仏閣巡りが好きです。

珍しい場所に立つ神社に心躍らせ、手仕事感の残る城の石垣に妄想を膨らませ、

そして、神聖な空気に背中をしゃんとさせながら手を合わせる。

その土地ならではの物語を感じる建物たちが好きですが、神社は長野の戸隠神社、お寺は滋賀県の比叡山延暦寺、お城は同じく滋賀県の彦根城が特に好きです。

そして、下手の横好きな写真と、旅のエピソードをこういったエッセイとして残すのが何よりの楽しみなのです。

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