福島から感謝を返す旅を続けている「にう」です。
47都道府県の一ノ宮を巡る旅。
長崎県対馬の木坂に鎮座する対馬國一宮・海神神社(わたつみじんじゃ)を訪ねました。
※地元の観光案内では「海神(かいじん)神社」と書かれてあります。

正直に告白します。
私はこの神社への参拝を、少しだけ「怖い」と感じていました。
離島という物理的な距離、天候による不確実さ。
どこか「遠くて、ままならない場所」というイメージを勝手に抱き、無意識に後回しにしようとしていたのです。
ですが、一歩足を踏み入れた瞬間にその思い込みは静かに崩れました。
私にとって海神神社は、「不確実さを受け入れ、自分の足で一歩ずつ登り切る強さを思い出す場所」でした。
夜行バスと飛行機を乗り継いで辿り着いた対馬の空気、250段の階段の先で出会った静寂、そして参拝後に身体の奥で感じた「生」の感覚をまとめました。
また、全国の「一之宮神社一覧」はこちらでご確認いただけます。

海神神社とは?なぜ「一ノ宮」なのか

現地の由緒書きによると、海神神社は平安時代の『延喜式神名帳』に「名神大社」として記載された、対馬国における「一ノ宮(その地域で最も格式高いとされる神社)」です。
また、神功皇后が三韓征伐の帰途に八つの旗を納めた場所として、古くは「木坂八幡宮」とも呼ばれていました。
四方を海に囲まれた対馬において、こうした壮大な歴史や神話の舞台というだけでなく、「漁に出た家族が無事に帰ってきますように」「元気な赤ちゃんが生まれますように」と、地元の人々の生活に寄り添い、長く頼りにされてきた親しみやすい神社という姿なのです。
主神である「豊玉姫命(とよたまひめのみこと)」をはじめ、合殿には「彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)」や「鵜茅草不合尊(うがやふきあえずのみこと)」といった神様が祀られています。
おもに海上安全や豊漁、そして安産守護のご利益があるとされています。
鳥居をくぐると、まず広い境内に驚きます。
かつては島の人々が集まり、盛大な祭事が行われていたであろうその場所は、今は深い森と野鳥たちの声に守られていました。
昔はキャンプ場や自然観察路としても使われていたのか、自然そのままの姿が残されています。
【実体験】250段の階段と、ヤギの鳴き声

2026年3月12日。午前中に対馬空港へ到着し、レンタカーを借りました。
小雨が降ったりやんだりの天気でした。
心を沈殿させる、250段の石段
拝殿へ続く道は、予想を遥かに超える「城郭」のような階段でした。
一段一段の幅が広く、250段近くはあるでしょうか。
夜行バスで羽田空港へ。福岡空港を経由して飛行機で対馬空港、そして慣れない山道の運転。
疲れが溜まった身体に、その段差は「本当に登るのか?」と問いかけてくるようです。
けれど、一歩ずつ足を上げることに集中していると、不思議と思考が静まっていくのを感じました。
ただ「登る」という行為そのものが、心を整える装置になっていく。

道端に頭を出したばかりのギンリョウソウの愛らしさに足を止め、遠くからはヤギの「メェ〜」というのんきな声を聞く(最初は空耳かと思いましたが、近くの牧場で草を食べていました)。
張り詰めた緊張が、対馬の自然の豊かさにふっと解かされていきました。
自分自身の葛藤を確認する授与所
階段を登りきり、拝殿で参拝。
参拝の間、ほんの一瞬だけバラバラと降った雨は、まるでそのやり取りを見守っていた「清め」のようでした。

参拝を終え、階段を降りる際に海が見えるかなと思いましたが、木々が生い茂っていて見ることができませんでした。
かつての人々はこの木々を切り出し、社を建て、その合間から真っ青な対馬の海を眺めていたのでしょう。
今の私には見えなくても、そこには確かに海がある。その確信だけで、十分でした。
階段を降り、授与所へ向かいました。
社務所にはどなたもいらっしゃいませんでしたが、鍵は開けられており、セルフサービスでお守りや書き置きの御朱印を受け取れるようになっていました。

海神神社といえば、「仏像盗難問題」がありました。
それなのに授与所はセルフサービス。
「大丈夫かな…?」
何かを盗るつもりはもちろんありませんが、誰もいない場所で御朱印をいただくことに葛藤を覚えました。
「御朱印一枚いただきます。お賽銭箱にお金入れました」
防犯カメラや録音を超えた、神様と自分自身への声出しと指差し確認。
なんとなく御朱印をいただくのではなく、自分の行動を意識し直すきっかけとなりました。
いただける御朱印・お守り・見どころ

- 御朱印:現在は基本的に「書き置き(1枚もの)」の形式で用意されています。日付は自分で書き入れるスタイルです。
- お守り・お札:御朱印と同様です。
- 授与の仕方:無人の場合はセルフサービスとなります。お賽銭箱に初穂料を納め、感謝とともに拝受します。
アクセス・駐車場・所要時間
対馬は非常に広い島です。
海神神社への参拝を計画されている方へ、お出かけ前に知っておきたい実用情報をまとめました。
移動手段と所要時間の目安
神社の場所は対馬の中央部やや北西、峰町木坂にあります。
移動はレンタカーかタクシーが基本となります。
- 対馬空港から:約41km(車で約1時間弱)
- 厳原港(厳原タクシーなど利用)から:約51km(車で約1時間強)
私はレンタカーを利用しましたが、山道のぐねぐねとしたカーブが多く、大型バスやダンプも通るため、運転には全集中が必要でした。
運転に不安がある方は、取り回しの良い軽自動車を選ぶか、タクシー利用をおすすめします。
路線バスもありますが、本数が少ないため事前の時刻表チェックが必須です。
私が利用したのはバジェット・レンタカー対馬空港店でした。
対馬空港でお借りしたレンタカーを、フェリーが出航する厳原港に無料で乗り捨てできます。
駐車場事情
神社の入り口付近(鳥居の前)に、車を停められる駐車スペースがあります。
休日の昼間以外は混雑することは稀で、無料で利用できます。
私は端の広いスペースに停めさせていただきましたが、後から来られた方も同じようにされていました。
通行の邪魔にならないようご注意ください。
参拝にかかる時間と準備
- サッと回る場合:約30分
- じっくり参拝する場合:45分〜1時間
参道の階段を自分のペースでゆっくり登り、厳かな森の空気の中で深呼吸するなら、1時間ほど見積もっておくと、忙しい旅の中でもしっかりリフレッシュできます。
鳥居から社殿までは石段や坂を登ることになるため、必ず歩きやすいスニーカーで訪れてください。
参拝後の変化と、日常への戻り方
階段を降りきったとき、足はガクガク。
その後に立ち寄った地元の町中華で食べたアツアツの酢豚定食が、身体に沁みわたりました。
内省的な時間のあと、温かくて美味しいものを食べる。
その瞬間、心がふわりと「日常」へと着地するのがわかりました。

250段の階段を、震える足で一歩ずつ。
それは、これからの人生を一歩ずつ歩んでいくための、静かな予行演習のようでした。
「見えなくても、そこにある。不確かでも、登れば辿り着く」
そう心に刻んで、私は対馬の道を再び走り出しました。
もしあなたが、不透明な未来を前に足がすくんでいるなら。
対馬の山深く、海の神様が守るあの静かな階段が、あなたの背中をそっと押してくれるはずです。

参拝後は厳原港まで足を延ばして、対馬のもうひとつの一之宮(論社)である「嚴原八幡宮神社」へ参拝されることをお勧めします。
また、全国の「一之宮神社一覧」はこちらでご確認いただけます。
